選択的夫婦別姓

2021年6月23日、最高裁判所は民法750条が「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」として婚姻の条件として夫婦が同じ姓を名乗ること(夫婦同姓)を強制している現在の制度を合憲とし、選択的夫婦別姓を求める原告の主張を退けました

選択的夫婦別姓とは?

  • 重要なポイントは夫婦同姓を否定しているのではなく、その強制をやめてほしい、結婚にあたって姓を同じにするかしないかを選べる自由がほしいという主張であること
  • 選択の自由が広がるだけなので導入されても誰も不利益を被らない
  • 日本国憲法は24条で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」としており、合意以外に夫婦同姓を婚姻の条件とすることは憲法に反する
  • 世界で夫婦同姓を強制しているのは現在日本だけであることが法務省の調査で明らかにされている
  • 夫婦同姓の強制で姓を変えるのはほとんどの場合が女性であるので男女平等に反しており、国際連合が1979年に採択した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(日本は1985年批准)にも違反する
  • 通称で旧姓を使えばいいとの主張もあるが、戸籍名と通称名の2つを使い分ける煩雑さを強いることは不当である
  • 別姓が認められないことが原因の事実婚やペーパー離婚などを選択する人々もいるが、税・相続・親権・その他様々な社会生活上の障害がある

憲法の番人は15人中11人が爆睡中?

選択的夫婦別姓については各種世論調査でも6割・7割が容認・賛成であること、夫婦同姓の強制は世界で日本しか行っていないこと、法務大臣の諮問機関である法制審議会が1996年に選択的夫婦別姓制度を導入する民法改正要綱試案を答申してから25年も経過していることなどから違憲判決も期待されましたが、判決は6年前と変わりませんでした

行政や立法が憲法を捻じ曲げるとき、それを正す最後の砦が最高裁判所、ゆえに最高裁判所は憲法の番人とよばれるというのは高校の政経の教科書にも書いてありますが、今回の判決では夫婦同姓の強制を違憲としたのは15人中4人の判事のみでした。6年前の同様の判決では15人中5人が違憲としたので、残念ながら1人減ってしまっています。最高裁判所は国民の世論からさらに一歩遠ざかってしまった印象を受けました

現在の最高裁判所判事15人は全員、安倍・菅政権下で任命された人たちなので、ここでも「忖度」という言葉が聞こえてくるようです。11人の憲法の番人は現在爆睡中で、どんな悪政が通過してもお構いなしなのでしょうか?衆議院議員選挙と同時に行われる最高裁判所裁判官国民審査で不信任が増えれば目を覚ます裁判官もいるかもしれませんね

志木市議会は選択的夫婦別姓制度の法制化を求める意見書を提出

今回の判決に先立つ2020年12月16日、志木市議会は選択的夫婦別姓制度の法制化を求める意見書を可決し、内閣総理大臣その他関係機関に提出しました。選択的夫婦別姓導入を求める世論が高まる中、各地の地方議会でも同様の意見書を可決・提出する動きが増えている(東京新聞の報道によれば2020年11月の時点で100以上)そうで、志木市議会もそれに続いたようです。内容は以下の通り、良い意見書です

 2018年2月に内閣府が公表した世論調査では、夫婦同姓も夫婦別姓も選べる選択的夫婦別姓制度の導入に賛成・容認と答えた国民は66.9%となり、反対の29.3%を大きく上回った。特に多くの人が初婚を迎える30~39歳における賛成・容認の割合は84.4%にのぼる。
 また同年3月20日の衆議院法務委員会において、夫婦同姓を義務づけている国は、世界で日本だけであることを法務省が答弁した。男女同権の理念に則り、2003年から日本政府に対して改善勧告を続けてきた国連女性差別撤廃委員会は、2016年3月の第7回及び第8回報告に対する最終見解において、改めて「女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏の選択に関する法規定を改正すること」を求めている。
 1996年2月26日に法制審議会が民法改正を答申してから24年が経過したが、未だ選択的夫婦別姓制度を導入する法改正の見通しは立っていない。最高裁判所は2015年12月16日に、夫婦同姓規定を合憲とする一方、「選択肢が設けられていないことの不合理」については裁判で見出すことは困難とした上で、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」と、民法の見直しを国会に委ねた。しかし、国会に委ねられたものの、まったく議論が進まないために、2018年には選択的夫婦別姓を求める裁判が4件も提起されている。
 平均初婚年齢が30歳前後の現代においては、婚姻前に個人名で信用・実績・資産を築く人が増えており、改姓によってこれまで築き上げたキャリアに分断が生じる例や、法的根拠のない旧姓の使用で不利益・混乱が生じる例は多く、それを避けるために結婚を諦める人、事実婚を選ばざるを得ない人が一定数いることは事実である。家族のあり方が多様化する今、最高裁判決の趣旨を踏まえて議論を進め、適切な法的選択肢を用意することは、国及び国会の責務であると考える。
 よって、志木市議会は国及び国会に対し、民法を改正し、選択的夫婦別姓制度を法制化することを求める。
 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

岡島貴弘議員の反対意見

この意見書は議長を除く13議員中12名の賛成で可決しました。反対した岡島貴弘議員の反対意見を一部引用すると以下になります(全文は志木市議会会議録検索システムから読むことができます

・・・<略>・・・
 我が国の夫婦同姓の歴史は、120年の長きにわたるものです。現状において、この制度は深く広く浸透している制度でございます。仮に夫婦別姓が選択できることになったとしても、引き続き現状の同姓を選ぶご夫婦が多数になると考えられます。
 ではその場合、子どもたちにどのような影響が生じるのか、入念な調査、周知、対策が必要ですが、具体的にどこまで進んでいるのか見えない部分が多くございます。いじめやトラブルの可能性、様々のことを想定し、個性や違いを尊重する教育など細かな環境の整備が必要であると考えますが、その周知や議論が置き去りになっているのではないかと感じます。
 制度を変えてから環境を整えるのではなく、見合った環境を十分に整備した上で実行に移さなければ、そのしわ寄せは子どもたちに直撃いたします。
 また、たかが120年の制度というお声もありますが、夫婦別姓制度になることによって戸籍制度の在り方も大きく変わってまいります。
 我が国の戸籍制度は、庚午年籍が始まりであると言われておりますが、その歴史は1,300年を超えます。世界唯一と言ってもよい戸籍制度、その歴史ある制度の大きな変更も必要となってまいります。
 諸外国に対し、先進国での夫婦同姓を義務づけているのは我が国だけであるというご意見がございます。確かに国際社会に倣うことも重要であり、その考え方は理解できる部分でもあるのですが、一方で国や地域によって歴史や文化も大きく異なってまいります。その違いは当然に尊重されるべきであり、単に右に倣えの考え方であってはなりません。
 先人が築き、つないできてくださった文化、伝統、歴史また戸籍をベースとした家族の在り方、これらを大きく変えるのであれば広く市民、国民を巻き込み、あらゆることを想定して進めていくべき問題であると考えております。
・・・<略>・・・

以下、感想を2つほど

■子どもたちへの影響への心配

いじめというのはあらゆることがその口実になり得るので、選択的夫婦別姓で両親の姓が異なることがいじめの口実になる可能性というのはもちろんあると思いますが、すでに各種世論調査で6割・7割が賛成・容認しているわけで、夫婦別姓への社会的な受け入れ環境は充分醸成されていると思います。むしろ多様性を認め合うための教材の一つとして教育現場でも積極的に取り上げていってほしいと思います

■「戸籍をベースとした家族の在り方」って何?

ウィキペディアによると戸籍は日本・中国・台湾に現存するが、中国・台湾では形骸化しており実質日本のみに残っているそうです。戸籍とは家単位で国民を管理する帳簿。明治からの家制度は婚姻では一般に妻が夫の「家」に入り、その証として姓を変えて夫の姓を名乗るのであり、この家制度での個々の家ごとの変遷を記録していたものが戸籍でした。明治4年に作られた戸籍法74条では、婚姻にあたり「夫婦が称する氏」を届け出ることを義務付けており、これが現在の夫婦同姓が必須の婚姻届の提出義務の根拠となっています。岡島さんは1300年を超える世界で唯一の戸籍制度と言っていますが、日本の戸籍制度は明治3年に平民苗字許可令が出て庶民に名字を名乗ることが許され、その翌年にこの戸籍法が制定されて始まったものです。それ以前は民衆には名字が許されていなかったことは周知の事実であり、江戸時代の民衆管理に用いられた人別帳には家の概念や姓の記載などはなく、明治の戸籍との連続性などはありませんでした。岡島さんが言っている「戸籍をベースとした家族の在り方」というのは要は明治からの家制度のことであり、それを維持したいから選択的夫婦別姓には反対だということなのでしょう

幸福追求権と個人の尊厳

■日本国憲法第13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

13条の幸福追求に関する部分を幸福追求権とよびます。ひとりひとりの国民が個人として自分の幸せを求める権利をもつということを明記したとても重要な条文です。自分の姓の変更を強制されたくない、結婚後も今までの姓を名乗り続けたいという希望は、なんら公共の福祉に反するものでもなく、幸福追求権の対象として当然認められるべきものです。憲法は幸福追求権に対して「最大の尊重を必要とする」と言っているわけですから国会は一日もはやく選択的夫婦別姓を認めるべきです

■日本国憲法第24条

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

憲法24条が婚姻や家族について詳しく規定しているのはかつての家制度が女性に従属と忍従を強いてきた歴史への反省に基づくものです。また家族が家長に従属し個人の意志より家の利益が優先されてきた歴史への反省でもあります。「個人の尊厳と両性の本質的平等」、素晴らしい言葉だと思います。これらが本当に尊重される社会になってほしいと願います

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>今井あさと

今井あさと

埼玉県志木市在住。敷島神社の近くに住んでます。27年間ほど都内の私立高校で非常勤講師をした後にフリーランスのプログラマ。非正規一筋の人生です(笑

非常勤講師で教えていたのは公民科(政治経済・現代社会・倫理など)。今でも政治や社会に強い関心があり、志木市の政治についても詳しく見てみようと思いこのようなブログを立ち上げました

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