合併をともなう義務教育学校化の問題点

現在志木市は小中一貫教育を推進し志木第二中学校区の志木第二小学校・志木第四小学校・志木第二中学校を合併し1つの義務教育学校にすることを計画しています。私は小中一貫教育の考え方自体には賛成ですが合併をともなう義務教育学校化には大きな問題点があると思います

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志木市の小中一貫教育について考える

合併すると1学級あたりの児童数が増える

令和7年度からは小学校は全学年が35人学級になるが…
かつては義務教育の学級定員は小学1年は35人、小学2年から中学3年までは40人でしたが、少人数教育を求める保護者や教育関係者の世論の高まりのなかで令和3年に改正義務教育標準法が成立し段階的に小学校全学年の学級定員を35人にすることになり、令和5年現在では小学4年まで、令和6年度には小学5年まで、令和7年度には小学6年までの小学全学年が35人学級になることになりました。中学校は40人学級のままですがこれについても35人学級化を求める世論は根強くあります。こうして遅々としながらも少しずつ少人数教育化は進んできましたが小学校を合併すると逆に1学級あたりの児童数が増えてしまうという問題があります

35人・40人学級の学級編制の計算方式
35人学級というのは、年度当初の学級編制において1学級の児童数を必ず35人にするということではなく、35人を超える学級を作ってはならないという制度です。つまり1学年の児童数が70人であった場合は35人・35人の2学級編制になるが、1学年の児童数が71人であった場合は2学級では1つが36人になってしまうので1学級増やして23人・24人・24人の3学級編制にしなければならないということになります。計算式でいうと「学級数=学年の児童数÷35(小数点以下繰り上げ)」となり、最悪では35人になるが、多くの場合はこの繰り上げにより1学級増えるため30人以下の少人数学級も珍しくなくなるという制度です

合併すると繰り上げの機会が減る
この繰り上げは1学年あたり最大1回ですので合併しなければ各学校あたり最大1回ずつで合計最大2回ですが、合併してしまえば最大1回となり繰り上げの機会が減ってしまいます。この結果実際の学級編制はどうなるか志木市が公表している令和5年度のデータに基づいて計算すると以下になります

  • 現時点で学級定員が35人の小学4年まででみると二小も四小も4学年中3学年が1学級あたりの児童数20人台ですが合併すると20人台は4学年中1学年のみとなっています
  • 6学年通してみると合併した場合には5学級が減少してしまいます
  • 合併の組み合わせによっては四小の2年のように合併後より条件が劣るケースもありますが、こういうケースは全体では12学年(6学年2校分)中で1学年のみ、表中でもっとも条件が悪い赤字は合併後に集中しています
  • 本件では現時点で合併が計画されているのは志木第二中学校区のみですので合併しない他の学区の小学校は今まで通り20人台の学級が多く、合併した義務教育学校のみが30人台の学級が多くなり同じ市内の小学生なのに教育条件に格差が生まれてしまうことにもなります
  • 教育委員会は役人の論理で35人学級という法制度さえ守っていれば1学級あたり20人台でも30人台でも問題ないと言うかもしれませんが、実際に通学する児童や保護者からすればこの違いは非常に大きなものなのではないか、私はこれを教育条件の大きな後退だと思います
  • このようにみてくると法で定められた学級編成の計算方式の性質上、合併すると高確率で1学級あたりの人数が増え全体の学級数も減るということがわかります。またこれはたまたまこの年度で発生する問題ではなく、合併すると端数繰り上げによる学級数増の機会が減ることが原因ですのでどの年度であっても多かれ少なかれ発生する問題です

合併すると先生の数も減る

上の表でもう1つ非常に重要なことは合併により学級数が5減っていることです。この分の教員は他の学校に転勤になり、合併前と合併後の児童生徒数の合計は同じであるにも関わらず教員の数が減ることになるのではないでしょうか?合併により1学級あたりの児童数が増えて担任業務が増加する上に担任以外の様々な校務分掌の割り当ても増加することになるわけで、これで合併前よりもきめの細かい一人一人の児童生徒に行き届いた指導をしろというとしたら現場に無理を押し付ける無茶な話になるのではないでしょうか?

過大規模学校新設の愚

志木第二中学校区の義務教育学校は40学級を超えるマンモス校
現在の計画で合併される志木第二中学校区の義務教育学校の学級数は上記の表の計算では合併後の小学校が28(令和7年度には小6までが35人学級になるので数は増えるはず)、志木第二中学校の普通学級は現在12ですので合計で40学級になります(特別支援学級は設置基準が異なるのでここでは除外していますが現状のままなら7学級で合計47学級になります)

本来は解消すべき過大規模学校を新設
学校教育法施行規則第79条の3では「義務教育学校の学級数は、18学級以上27学級以下を標準とする。ただし、地域の実態その他により特別の事情のあるときは、この限りでない。」としており、文部科学省は28〜34学級を大規模学校、35学級以上を過大規模学校とし過大規模学校については速やかにその解消を図るように設置者に求めています。日本の教育行政はようやく小学校の35人学級化が決まるなど先進国としてはかなりお寒いものだと思いますが、その教育行政ですら過大だと言わざるを得ない35学級を大きく超える巨大学校を新たに作ろうとするのはやはりおかしいのではないかと思います。第79条の3では例外も認めているので違法とは言えませんが、法的な標準上限は27ですから40以上というのはもはや例外とよべるレベルを超えているのではないかと思います

この表は総務省のHPに掲載されていた『小中高等学校の統廃合の現状と課題(文部科学省)』という資料からの抜粋ですが、平成30年度で35学級以上は全体の10%しかありません

まとめ

この義務教育学校化には無理が多すぎるのでは?
小中一貫教育で9学年が1つの学び舎で交流しながら過ごす義務教育学校はたしかに魅力的であり様々なメリットがあることも否定しませんが、それはあくまでも義務教育学校が適正な規模であることが大前提です。学校教育法施行規則における義務教育学校の標準的な学級数は18〜27ですがこれを9学年で割ると1学年2〜3学級という数字になり、これくらいの規模であれば義務教育学校のメリットが享受できるだろうと思います。しかし現在志木市が作ろうとしている40学級超の過大規模の義務教育学校(全校児童生徒数は令和5年現在で特別支援学級も含めると1369人)ではメリットよりも上に書いてきたデメリットの方が大きくなるように思えてなりません。こんな大規模な学校で「決して誰一人取り残さない教育」(志木市小中一貫教育基本方針【概要版】)というのが可能なのか?かつてはこういう大規模なマンモス校が多数あったわけですがそこでは取り残してしまう子どもが多数出てしまった反省から学校の小規模化が進んできたはずなのにその歴史に逆行しているとしか思えません。1369人をまとめてきめ細かく一人ひとりの個性や発達段階に応じて教育など画餅としか思えません

少人数教育は小中一貫教育と同じくらい大切なこと
無理して3校を合併して2校舎に詰め込む意味があるのでしょうか?とにかく義務教育学校化ありきでその形を作るために無理やり合併しようとしているのではないでしょうか?合併はせずに独立した3校が連携して小中一貫教育を行う小中一貫型小学校・中学校の形式を選択して3校体制のままにすれば1学級あたりの児童数増加の問題も教員数減の問題も発生しません。文部科学省の『学級規模の基準と実際[国際比較]』によれば日本の1学級あたりの児童生徒数の多さはOECD加盟国で2位(1位は韓国)と非常に劣悪であり少しでも減らしてゆくべきなのに無理な義務教育学校化のために合併して1学級あたりの児童数が増えるなどということは決してあってはならないと思います。私は都内の私立高校で27年間非常勤講師として教壇に立ってきて1学級の生徒数がどれほど重要かということは身にしみて知っています。義務教育学校のメリットと引き換えに1学級あたりの児童数が増えても構わないなどというのは実際の教室を知らない人の主張だと思います

相変わらず負の面は公開しない「情報公開」
市が公開している志木市小中一貫教育基本方針【概要版】 によれば小中一貫教育はいい事ずくめでバラ色の教育環境が構築されそうに読めますが、上記に書いてきたような問題点についてはただの一言も触れられていません。まさかこういう問題点があることを教育委員会が知らないはずもなく、都合のいいことだけを喧伝して負の側面は知らせようとしないあいも変わらずのお役所仕事。教育という極めて重要な問題について改革を行おうとするのであればすべての情報を公開して全市民的な議論を行うべきだと思いますがなかなかそうはならないようで残念な限りです

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