現在、志木市は志木市民会館及び志木市民体育館再整備基本計画(素案)(以下、素案)を発表し、これに対する市民の意見を募集(2021年8月5日まで)しています
選択肢は4つ
志木市民会館(パルシティ・昭和53年開設)と志木市民体育館(昭和55年開設)はいずれも開設から40年以上経過して老朽化が進み、耐震性能も不足しているため早急に対策がのぞまれており、素案には4つの選択肢があげられています
選択肢 | 費用概算 |
---|---|
それぞれを耐震化(改修) | 57.2億円 |
それぞれを建て替え(新設) | 80.9億円 |
複合化(市民会館側に新設) | 64.1億円 |
複合化(市民体育館側に新設) | 77.1億円 |
国からの財政支援
現在市長は3番めの市民会館側に複合化して新設する方針を進めていますが、その理由は国からの財政支援にあります。下表は素案の18ページからの引用です
それにしても、市民から広く意見を求めるための資料としてはとても不親切です。充当率とか措置率ってなんでしょうか?
●充当率
こういう大規模事業は市の財政では1年で賄うことは不可能なので、地方債を発行して賄いますが、これは無制限に発行できるものではなく、事業の内容によってその上限が決まっています。仮に10億円の事業で充当率が90%だったら9億円まで地方債を発行することができます
●措置率
地方債は言うまでもなく借金であり、利子をつけて返済する必要がありますので、そのままでは将来の市民の負担が増えることになりますが、ここでポイントになるのが上表の措置率です。措置率とは地方公共団体が発行した地方債の一部を国が肩代わりする交付税措置というものの割合です。仮に10億円の事業で充当率が90%で措置率が50%だったとすると、地方債9億円の50%の4.5億円が国によって肩代わりされることになります。これはいわゆる補助金(国庫補助金)とは異なる特別な制度で、現在は災害復旧・防災対策・公共施設等適正管理その他特定の事業に限って実施されているそうです。上表で耐震化と複合化は対象になっているのに建て替えが対象になっていないのは耐震化は防災対策、複合化は公共施設等適正管理等に該当するが建て替えはどれにも該当しないためです
複合化では延床面積の縮小が必須になる
耐震化、建て替え、複合化のどれがいいかと考えた時、耐震化はちょっと厳しいかなと感じます。市民会館も市民体育館も実際にみてみるとかなり老朽化が進んでいます。耐震化でも財政支援は受けられますが、耐震化しても建物の寿命自体が大きく伸びるわけではないでしょうから早晩建て替えが必要になってしまうと思います。一番理想的なのは両方とも新規に建て替えることですが、上記の財政支援は受けられず市の財政負担は重くなってしまいます。ならば複合化でいいではないかというと、実は1つ問題点もあります。下記は総務省の自治体施設・インフラの 老朽化対策・防災対策のための 地方債活用の手引きという資料からの引用ですが、複合化すれば必ず財政支援が受けられるのではなく、複合化によって延床面積が減少することが財政支援の条件なのです。つまり、複合化すれば現在の市民会館と市民体育館の施設や機能がそのまま合体するのではなく、削られる部分も出てこざるを得ないわけです。また、せっかく新しい施設をつくるのならこんな機能を追加してほしいという要望もあると思います(個人的には温水プールがほしいです)が、延床面積が増える要望はすべて受け入れられないと思われます
日本では高度経済成長期にいわゆる箱物行政で全国に多数の箱物が作られてきましたが、現在ではそれらが老朽化し、今後大震災がおきたときの危険性と、施設の維持管理・改修等の財政負担が深刻になっており、政府としては箱物を整理していきたいと考え、それを促進するために複合化に対して特別な財政支援を行っているわけです。つまり、複合化とは公共施設のリストラなのです。確かに無駄な箱物は処分するべきですが、市民生活にとって必要なものまで処分・縮小されては困ります
もっと丁寧な情報公開を
確かに財政支援を考慮すると複合化がいいような気もしますが、素案には延床面積の縮小が必須であることは書かれておらず、24ページに「複合施設の規模(延床面積)については、マネジメント戦略や個別施設計画に基づ き削減を図ります。」と書かれているのみです。メリットばかり強調しデメリットを隠し立てするようなやり方ではなく、すべてをきちんと説明した上で意見を募集してほしい。私は以下の点についてもっと丁寧に情報公開してほしいと思います
- 複合化して延床面積が縮小した場合、どれくらい縮小するのか、素案38ページに「現在の両施設合計約11,400㎡から約10,000㎡以内」とあるが「以内」の部分が不明瞭である
- 素案24ページ【基本的な考え方】②で会議室の削減または廃止ととれる記述があるが具体的にどの程度の削減を考えているのか
- 同③で各諸室の規模見直しとあるがこれについてももっと具体的に知りたい
- 素案26ページ以降では現行の規模を維持するものばかりが詳しく書かれているが、現行より縮小されるものは何なのか、対照表を作るなどして明確に示してほしい
- 複合化して国から財政支援を受けた場合の市の負担分はいくらになるのか、特に新規建て替えとの比較が知りたい
- 素案に示されている財政支援は令和2年度のものだが、志木市の計画が実施になる時点でもこの支援が継続している見通しはあるのか
- 市民体育館の跡地はどう使うのか(財政支援を受けたら公共施設は作れないので売却するのか)
- 市長は先日の市長選挙で柳瀬川にも代替施設を検討すると言っていたが複合化の財政支援と矛盾せずに実行できる見通しを持って言っているのか
事業手法について
素案の32ページからは事業手法について述べられており、大変重要な部分ですが、これまた専門用語羅列でとても不親切な文書になっています。本当に市民から意見を聞きたいと思って作っている文書なのか?英語略称の専門用語使うならせめてフルスペル位書いてくれないと意味の推測すらできませんし検索にもヒットしにくいです。4つの事業手法が提示されていますが、何が違うのか自分なりにまとめてみました。基本的に設計・施工・維持管理をどのように進めるのかという問題です
●設計・施工分離発注方式
設計・施工・維持管理それぞれの事業者を市が選定する方式で、もっとも市側の意向が反映しやすい、したがって市民の声も反映しやすい(はず)の公共事業の手法としてはもっともオーソドックスな方式
●ECI方式(Early Contractor Involvement)
設計・施工・維持管理それぞれの事業者を市が選定するのは上と同じだが、施工の優先交渉権者を事前に決めて設計に参加してもらう方式。施工者から専門知識に基づくアドバイスをうけて設計に活かすことができる。実際にその施工者と契約するかは設計完成後の価格交渉で決めることができる
●設計・施工一括発注方式(DB方式)
DBはDesign Build(設計・施工)、DBOはDesign Build Operate(設計・施工・維持管理)。DBまたはDBOを1つの企業または企業グループに発注する方式。丸投げに近いので手抜き工事等を監視しにくくなる。発注後の仕様変更などが難しく、市民参加型に馴染みにくい。事業者の関与が強まる分、利用料金も高くなる可能性が高い
●設計・施工・維持管理一括発注方式(PFI方式)
PFIはPrivate Finance Initiative。ファイナンスとあるとおり資金調達まで民間業者にまかせる方式。特別目的会社というものを作らせ、資金調達・設計・施工・維持管理のすべてを任せる。ほぼ丸投げ。市民参加型には馴染まない。利用料金ももっとも高くなると思われる
DBとPFIは論外で他の2者で選択すべきと思いました
私の意見
私なりにいろいろ考えた意見を2回にわたってメールで送信しました。どれくらい耳を傾けてもらえるものなのか結果を待ちたいと思います