なぜ選挙カーはなくならないか?
きらわれる選挙カー
日本では選挙になると街中を選挙カーが走り回るのが普通ですが「やっと赤ちゃん寝かしつけたら起こされた」「寝たきりの高齢者・病人がいるのに」「夜勤のために寝ているのに」「単純にうるさい」「排気ガスまきちらしながら環境問題とか言うな」「ネットでやれ」など選挙カーはやめて欲しいという声も高まっています。しかし現実にはなかなかなくならないのはなぜでしょうか?
公職選挙法
日本の公職選挙法はポスター・のぼり・たすき・ビラなどでの宣伝への規制、戸別訪問の禁止などきわめて制限が厳しく、候補者の名前を宣伝する機会が限られています。そのような中で選挙カーはきわめて貴重な宣伝手段として重宝され今日にいたっています。なお選挙カーにも制約があり、その一つに車の走行中は連呼行為のみしかできず、演説する場合は停車していなければならないというものがあります。そのため選挙カーは走りながら候補者の名前ばかりをくり返しくり返し流すことになり「なんの意味があるのか?」と反感を買うことにもなっています
選挙公営
多くの自治体では資金力の差による選挙の有利不利を減らすために選挙カー・公営掲示板用ポスター・選挙ビラなどに税金からの補助を行っています(選挙公営)。例えば志木市では下表のように選挙カーに対しては最大約45万円の補助が出ており候補者によっては非常に貴重なものになっています
選挙カーのメリット・デメリット
煩音
人が不快に感じる音を煩音とよぶそうですが、「うるさい」と不快に感じるかどうかは音の大きさだけではなく音の主に対する好感度でも左右されるそうです。例えばヘビメタバンドの爆音演奏はファンにとっては極上のサウンドであり、そうでない人にとっては大変な煩音になります。選挙であればスピーカーの音量が同じでも支持する候補であれば「がんばってるなぁ」となり、嫌いな候補であれば「あぁうるさいっ!」となりやすいため、上の表の選挙カーへの反感で支持者の票が減る可能性は低めに見積もることができ、候補者は支持者以外からの票の新規獲得を期待して選挙カーを使おうとします
また上の表の「支持者以外」には選挙にいかない多数の人も含まれ、恐らく彼らが選挙カーにもっとも反感を持つ人たちだろうと思われますが、候補者からすると選挙にいかない人に反感を持たれても票には影響ないのでその反感は気にせず選挙カーを使い続けることになります
選挙カーの集票効果
選挙カーには本当に集票効果があるのか?という点について大阪大学大学院の三浦麻子教授が行った調査があります。対象は2015年の兵庫県明石市長選挙(無所属の新人3候補、投票率61%)で1人の候補者の選挙カーに密着して調査したそうです
あいさつの文化
上記のNHKの解説によると三浦教授の調査結果は「選挙カーが自宅近くを通ったりした人ほど、この候補者に投票する人が多くなる」しかし「選挙カーなどの選挙運動との距離が近いほど、候補者への好感度が上がっているわけではない」というものだったそうです。選挙カーがくると候補者への好感度は変わらないがその候補に投票する人が増えたというのはとても興味深いですが、要はこれは日本人の「あいさつの文化」、「わざわざここまであいさつに来てくれてありがとう」というお礼としての投票行動なのかと思います。公選法が戸別訪問を禁ずる前の時代、私の祖父は誰でもいいから最初にあいさつにきた候補に入れていましたが、それと通じるものがあるように思います
この集票効果が「あいさつの文化」だとすると地方都市と東京周辺ではかなり効果が異なるのではないかと思います。人間関係が希薄な都会ではあいさつどころか隣に住んでる人が誰かも知らないというのも珍しくありませんし、人口密集地に選挙カーがひしめくと、選挙カーがわざわざきてくれたから…という感覚にもなりにくいと思います
選挙カーを使わない選挙運動
選挙カーなしでも当選
最近は選挙カーを使わないで当選する候補も増えてきているようです。近隣でも私が気づいた範囲で昨年の朝霞市議選では1名が選挙カーなし、1名がお昼寝タイムにスピーカーを使わない戦略で当選。先日の新座市議選でも選挙カーなしで1名が当選していました。下記のリンク先のように選挙カーを使わないことなどを必勝法にした議員のグループもあるようです
赤穂市と志木市の比較
間接民主主義のコスト
選挙カーが法的に認められているのは選挙で一定期間街が騒がしくなるのは間接民主主義のコストとして許容されるべきという考え方ですが、さりとてこの小さな街に何十台もの選挙カーがひしめくと日常生活に支障を来す市民も出るかもしれません。選挙カーのスピーカーは法的には8時から20時まで使用可能ですが、選挙カーを使う全候補が紳士協定を結んでスピーカーの使用時間を短くするなどできればいいのですが、告示日にならないと最終的な顔ぶれがわからないので交渉自体がなかなか難しいかもしれません。あるいは政党公認候補は選挙カー以外に政党の宣伝カーも使うことができます(選挙運動ではなく通常の政治活動として)が、政党間で紳士協定を結んでこれを自粛するという考え方もあるかもしれません