今年度も生活保護支援相談員として警察官OBを任用
志木市の令和4年度会計年度任用職員募集に関する募集職種及び勤務条件一覧表.pdfによれば、今年度も「警察官OB」であることを要件として生活保護支援相談員を募集しており、勤務内容は「生活保護に関する行政対象暴力への対応、不正受給案件の調査」となっています
こういう募集はいつから行っているのか市に問い合わせたところ以下のような回答がありました
本市の生活保護支援相談員としての警察官ОBの任用については厚生労働省による「生活保護適正実施推進事業」の「警察との連携協力体制強化事業」に基づき、平成25年度から行っております。
警察との連携協力体制強化事業とは
市の回答にある厚生労働省による「生活保護適正実施推進事業」とは厚生労働省が公開しているセーフティネット支援対策等事業実施要綱の3-(2)にありますが、その中の警察が関連する部分は「行政対象暴力に対する警察との連携協力体制強化」とあり、志木市の回答では「行政対象暴力に対する」という限定が外されてしまっているのが気になります。そしてこの事業を行うと国から補助金が出るようで、リンク先の茨城県の資料によると「対象経費の 3/4(厚生労働大臣が認めたものについては 7/8)」となっています。国としては生活保護の支出を減らすために補助金を出して警察官OBの任用を奨励しているのでしょう。ただ、国がすべての生活保護受給者を警察官OBによる調査等の対象にしているとなると、大変な批判が起きることは明らかですから「行政対象暴力に対する」という限定をつけているのでしょうが、それが現場にくると志木市の回答のように限定部分がはずされてしまうのが非常に危険だと思います。実際、冒頭にあげた勤務内容でも「生活保護に関する行政対象暴力への対応、不正受給案件の調査」と「不正受給案件の調査」が追加されており、警察官OBの業務が行政対象暴力以外にも広げられてしまっています。そもそも志木市の福祉事務所で行政対象暴力が日常的に発生しているなどの話は聞いたこともなく、任用された警察官OBの日常的な業務は「不正受給案件の調査」の方になるものと思われます。また行政対象暴力対応だけであれば警備会社勤務経験や武道有段者などでも事足りますから、あえて警察官OBに限定するのは「不正受給案件」に対する警察の捜査ノウハウ活用こそがこの事業の狙いなのではないでしょうか?ついでに地元警察の再就職先を増やしてコネクションを…というのもあるかと考えるのは穿ち過ぎでしょうか?
日本弁護士連合会は警察官OBの福祉事務所配置に反対
日本弁護士連合会は2012年に「警察官OBの福祉事務所配置要請の撤回を求める意見書」を厚生労働省に提出しています。全文はリンク先から読めますが、福祉事務所による面接、訪問、調査等のケースワーク業務を行うのは社会福祉主事の資格を持つ者でなければならないことが社会福祉法によって定められており、資格を持たない警察官OBにそれをやらせることは違法であるという指摘は非常に重要だと思います。また行政対象暴力については所轄警察署に協力を求めればよいというのもそのとおりだと思います。役所における暴力的な事件は必ずしも福祉事務所でばかりおきるわけではなく、いつどこでおきるかわかりませんから、臨機応変に110番するなどして対応するべきでしょう
不正受給について
私はこういうブログを書いていて決して不正受給を許していいなどと思っているわけではありません。ただ不正受給の中には子どものアルバイト代を申告していなかったなど制度を知らなかったがゆえの軽微なものも多いと聞きます。そういう事例については資格を持ったケースワーカーがきちんと説明して正せばいいのであり警察官OBの出る幕はないでしょう。一方暴力団関係者などによる明確な犯罪行為としての不正受給もありますが、そういう場合は正当な捜査権限を持つ所轄警察署に連携して捜査すればいいわけで、ここでも警察官OBなどという捜査権限も持たない中途半端で不透明な存在の出る幕はないと思います
志木市での実態は?
上の画像は議会議事録なので市長の公式な答弁ですが、ここでも警察との連携協力体制強化の「行政対象暴力に対する」という限定がはずされてしまっており、これでは国が生活保護全般にわたって警察官OBを活用するように指示しているかのようなミスリードを誘います。また「家庭訪問の際の同行」と明言していますが、上記の日本弁護士連合会の指摘によれば社会福祉主事の資格を持たない者が同行して質問などすれば違法なのではないでしょうか?質問などはせず黙っているとしてもそれは訪問された側にとっては大きな精神的プレッシャーを与えることになり健全な福祉の姿とはかけ離れたものになるように思います
また、別項「志木市福祉課は元警察官に生活保護受給者を尾行させている」でも書きましたが、志木市では警察官OBによるいやがらせのような尾行も行われているようであり、事実だとすれば断じて許されてはなりません
なお「行政対象暴力に対する警察との連携協力体制強化事業」は法的な義務などではなく、やるかやらないかは各自治体の判断で決められるものですから、志木市にはこれをやめることを求めます
「底辺を保障することは全体を保障すること」
私は長いこと非常勤講師として高校で政経などを教えていましたが、授業で使っていた資料集に北欧での社会的合意としてこの言葉があり授業でも毎年紹介していました。セーフティネットとしての生活保護の意義がよく分かる言葉です。誰だって事故や病気で働けなくなったりする可能性はある、もしそうなってしまったらどこまで落ちてゆくのかわからない、そういう不安のある社会、そうではなく、いざとなったら生活保護がありそれを足場に再起をはかれるという安心がある社会、生活保護は今それを受給している人のためだけにあるのではなく、誰もが安心して暮らせる社会を作るためにあるのだと思います
もし自分が生活保護に頼らざるを得ない状況になって福祉事務所に行ったら、奥の方に何か怖い感じの人がいてこっちを見ていたとか、ケースワーカーが家庭訪問に来たら同行者がいて終始無言だったが怖かったなどというような社会は私は嫌です
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という日本国憲法第25条はとても素晴らしい条文だと思います。この理念の実現のために警察官OBの福祉事務所への配置は不要だと思います
おまけ
この問題でいろいろ検索していてちょっと面白いなと思ったのが以下の3市(松戸市・西宮市・さいたま市)のサイトです。下の3つの画像の文言がとても良く似ていますしページ全体をみても構成や文言がそっくりな部分が多々あります。厚生労働省あたりが見本のようなものを作っていてそれをちょっとだけ変えて流用したというところでしょうか?松戸市とさいたま市が市の独自性を強調しているのも厚生労働省の意向だったりするのでしょうか?「警察官OBを福祉事務所に配置しているのはあくまでも地方自治体が独自にやっているのであり国は関与していません」とでもいいたげですね、実は補助金出してるのに…
福祉や生活保護は地方自治体の仕事の中でも非常に重要なものですが、その取り組みを市民に知らせるHPがコピペベースで作られているとしたら悲しいですね
●警察官OB任用に関する記述
・松戸市
・西宮市
●ページ全体(2022/5/29時点のスクリーンショット)
・松戸市
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