新庁舎グッドデザイン賞受賞の不思議

新庁舎が2023年度グッドデザイン賞を受賞

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令和5年10月20日、志木市は昨年7月に完成した新庁舎がグッドデザイン賞を受賞したことを発表しました。県内の市役所庁舎では初(志木市調べ)だそうで以下に記者発表資料の一部を引用します

・・・中略・・・

4の「評価コメント(原文)」で主催者による受賞理由が述べられていますが、要約すると庁舎前の広場と庁舎のフロアごとのテラスの組み合わせ(広場と客席のセット)が高く評価され、これがイベント時だけでなく日常的に活用されていくことを期待とあります。私はこの文章を読んでいてとても奇妙だと思いました。なぜならフロアごとのテラスは日常的には使用禁止だったからです

新庁舎の2F〜4Fにはそれぞれこの写真のようなテラスがあり、2022年7月31日の新庁舎落成イベントでは自由に出入りすることが可能でしたが、それ以後は日常的には上記のような張り紙が貼られていて出入り禁止になっていました(後述しますが志木市は新庁舎落成時点からイベント時以外はテラスは永続的に使用禁止と決めていたそうです)。つまりグッドデザイン賞の審査が行われた時点ではすでにテラスは日常的には使用禁止だったわけで、今後ありえない「日常的な活用」を期待するなどというトンチンカンなコメントがついていたことに驚きました。一体このグッドデザイン賞とは何なのでしょうか?

グッドデザイン賞のしくみ

グッドデザイン賞の応募や審査の仕組みについては公式サイトに詳しく説明がありますが、2023年度について簡単にまとめると以下になります

審査・料金等

  • 一次審査:応募者からの書類等の情報に基づく審査(料金11000円)
  • 二次審査:幕張メッセで3日間展示会を行い審査。審査会場に搬入可能なものは実物審査、搬入不可能なものはパネル展示を審査(料金:60500円)
  • 受賞した場合は受賞パッケージ料165000円
  • 受賞後にGマークを使う場合は有料(ただし公共機関は無料)

世の中にはいろいろな「賞」がありますが、グッドデザイン賞は欲しいと思った企業等が自ら料金を払って審査を受け、受賞した場合にも料金を払うので、最低でも合計236500円を応募者側が負担する賞です。賞というと受賞すると賞品なり賞金がもらえるのかと思ってしまいますが、この賞は逆に受賞した場合にも料金を払う賞です。応募する側は受賞すると商品に箔が付くので広告宣伝費と考えればこの程度の料金を払ってでも応募したいと考える企業も少なくないようですが、主催者側としては賞を乱発すると権威が落ちる、さりとて厳しすぎると応募者が来なくなりビジネスにならないので、だいたい毎年3割程度は受賞させて応募者と主催者双方に利益があるようにバランスをとっているようで、公式サイトによれば2023年度は応募5447件中1548件(28.4%)が受賞したそうです

建築物等は現地審査なし

本件で気になったのは二次審査で審査会場に搬入不可能なものはパネル展示で審査ということです。私はてっきり審査員が現地に来て現物を詳細に審査するのかと思っていましたがそうではなく、本件のような建築物はパネル展示での審査でよいということで、これだと都合の悪いことは隠していいとこだけの写真をパネルで見せることが可能でありかなりゆるい審査で済んでしまいます。実際、志木市からの説明(後述)によれば、この受賞では現地審査はなく提出書面のみの審査であり、書面にはテラスが日常的に使用禁止であることは書かれていなかったということで、上記のトンチンカンなコメントが生まれた理由もうなずけます

受賞したのは広場とテラス、肝心の中身は?

公式サイトで公開されている今回の志木市新庁舎のグッドデザイン賞受賞の詳細のページをみると「デザインのポイント」として3点あげられていますがいずれもテラスのことばかり、審査に提出したと思われる写真も何枚かありますが、新庁舎落成イベントでの広場とテラスの様子のものばかりで肝心の新庁舎の内側についてはまったく触れられていません。市役所の庁舎でもっとも大切なことは平常業務における使い勝手であるはずなのにそのデザインは無視して外側の広場とテラス(しかも平常時使用禁止)のことばかり誇っているのは本末転倒だと思います。私は実際に新庁舎に行ってみて結構狭苦しい、1階は来庁者が多いときには待合席がいっぱいになる、各種委員会等を傍聴に行くと会議室が狭く膨張可能人数が3名や5名に限られているなど窮屈な印象を受けることが多いです。庁舎前にあんな大きな広場(イベントなんてたまにしかなく平常時にはただのデッドスペース)を作るくらいなら庁舎をもう少し大きめにして内部にゆとりを持たせるデザインにしたほうがよかったのではないかと思います

また、建物が横長なのに入り口を左端に1つだけしか設置しなかったため用向きによっては建物内を端から端に往復せねばならず不便です。別項『志木市長は市民の自転車を見苦しいと言うのか?』に書いた駐輪場の件も含めてこの庁舎は使い勝手のいいデザインだとは思えません

広場のデザインは本当にグッドか?

グッドデザイン賞の審査は応募者が出したイベント時の写真だけでグッドだと評価したようですが、この広場のデザインは本当にグッドでしょうか?

市庁舎落成数カ月後の2022年10月撮影。歩道と広場を隔てる部分にはとても長〜い階段があります。設計者からするとおしゃれでかっこいいデザインかもしれませんが、これはバリアフリーの観点からすると弱者を拒絶するとてもいじわるなデザインです。世の中の人はすべて階段を苦もなく使えると思い込んでいるか手すりを必要とする弱者がいることを無視したデザインファースト弱者ラストの自己満足なデザインだと思います。香川市長はこれを志木市のランドマーク=象徴と呼んでいますが、これでは弱者に冷たい市政の象徴となってしまっています

その後、写真右のバス停前に手すりが設置されました。市民からの苦情があったからではないでしょうか?階段を使うのに手すりが必要な人がたくさんいるということを設計時点で気づいておらず後から手すりを設置せざるを得なくなったという点でこのデザインは公共施設のデザインとして失格、バッドデザインであったと言えると思います。また、手すりをつけたとしても階段自体に難儀する方も多数いることをこのデザイナーは理解していません。車椅子、ベビーカー、杖、カートを使っている人々にとってはたとえ数段の階段であっても通行の妨げになることを無視したとても弱者に冷たい作りになっています

この広場の向かって左側の隅にスロープと点字ブロックがあります。このデザイナーは上に書いたような階段に難儀する弱者は十把一絡げにここを使えばいいと考えたのでしょうが、このような弱者は脇に回れという発想はユニバーサルデザインの観点からは大きくズレていると思います。弱者に遠回りしろと言っている時点でとてもいじわるですが、それ以上にこのスロープ、一方から全盲の方、他方から車椅子を使う肢体不自由の方が進んできた場合、安全に行き違いできるでしょうか?広場はとても広いのに弱者を隅に追いやったデザインはとてもバッドであると思います。ユニバーサルデザインとはできるかぎり弱者と健常者の境目をなくしていこうという考え方です。弱者も健脚な人も等しく同じ入口から出入りできる境目のないデザイン、この場合であれば入り口の長〜い階段をすべてスロープにして何箇所かに手すり、両サイドとバス停前に点字ブロックをつければよかったのです

市長への手紙への回答

私はこの問題について市長への手紙で2度質問しました。その内容は以下のとおりです

1回目の回答

 ステップテラス(バルコニー)の立ち入りについては、令和4年7月の開庁時より禁止としております。ステップテラスは、職員や警備員が利用状況を常時把握することが難しいため、万一の事故等の発生時に迅速に対応できないなどの懸念もあることから、イベント時等の開放としております。この措置は、現在のところ継続的なものと考えております。
 新庁舎がグッドデザイン賞を受賞した件についてですが、審査にあたりバルコニーの開放については、特に問われておりません。
 なお、審査方法については、現地審査はなく提出書面等の審査でありました。
 グッドデザイン賞の応募資料をデジタルデータで返信に添付することについてですが、応募資料は、設計者である(株)佐藤総合計画が主として製作したものであり、設計者の著作権があることからデータの添付はできかねます。なお、応募者については、志木市、佐藤総合計画の2者連名です。
 また、応募にあたっての費用の支出はありません。

新庁舎開庁時からテラスは継続的に使用禁止、審査にあたっては現地審査はなく書面のみであったことが明記されています

2回目の質問と回答(一問一答形式)

1. ステップテラスはイベント時等の開放ということですが、昨年の新庁舎落成イベントでは開放されていましたが、それ以外では現在までにどのイベント等で開放されたのかすべてを列挙してください。また今後のイベントで開放する予定があればそれも列挙してください


答1.個々のイベントで開放の有無を記録してはおりませんので、すべての列挙ではございませんが、市民まつり(令和4年12月4日)、九都県市合同防災訓練(令和5年8月27日)ではステップテラスを使用しております。また、今後のイベントでは、必要に応じて使用してまいります。

2. ステップテラスを日常的に開放しないのは事故等の可能性があるからということですが、設計時に予見して対策することはできなかったのですか?それとも日常的な閉鎖を前提に新庁舎を建設したのでしょうか?


答2.当初の回答では、「事故の可能性がある」とはお答えしておりません。通常の利用においてステップテラス自体が事故の危険性のあるものではありませんが、職員や警備員が利用状況を常時把握することが難しいため、万一の事故等の発生時に迅速に対応できないなどの懸念もあることから、イベント時等の開放としているものでございます。
 なお、ステップテラスはイベント等で利用するためだけのものではございません。テラスはその形状から深い庇の役割を持ち、夏場は強い日差しが室内に入ることを防ぎ、逆に冬場は室内に取込むことで、空調負荷の低減を図っているほか、強風時に飛散物等によるガラスへの被害を防止・軽減するなど、環境や災害対策としての機能も兼ね備えているものでございます。

3. グッドデザイン賞の審査は書面のみだったということですが、審査に提出した書面にはステップテラスは日常的に閉鎖されているということは明記してあったのでしょうか?


答3.審査に提出した書面にそのような記載はしておりません。

4. グッドデザイン賞応募に市の支出がないということですが、グッドデザイン賞の応募は有償のはずです。公共施設は無償などの優遇があったのでしょうか?それともすべて佐藤総合計画が負担したのでしょうか?


答4.応募に係る費用は株式会社佐藤総合計画が支出しております。

2の質問への答えがとても苦しいものになってしまっています。『「事故の可能性がある」とはお答えしておりません』と言っておきながら直後に「万一の事故等の発生時に迅速に対応できないなどの懸念もある」と言っていて完全に矛盾しています。市としては2の質問が非常に苦しいものであったのでしょう。また「万一の事故等の発生」を心配して使用禁止にするならテラスへの出入りをしっかりロックできる作りにすべきだったのに実際はよくあるサッシの簡易な内鍵だけで誰でも容易に開けられてしまう構造になっているので市はこのテラスでの「万一の事故等の発生」の可能性について事前には何も考えていなかったことはあきらかでしょう

最後に

市庁舎向かい側のいろは親水公園の中洲も見た目はおしゃれでかっこいいですが、弱者には冷たい作りになっています。同時並行でつくられた市のランドマークとされる施設がどちらもデザインファースト弱者ラストの作りになってしまっていることは市民として残念でなりません

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追記(2023/12/3)

2023年12月3日は第16回志木市民まつりが開催され大変な盛況でした。前回の市民まつりではステップテラスが開放されたということで今回も開放されるかと思い行ってみたところ3・4階とも立ち入り禁止で2階は展示などがありましたがステップテラスはやはり立ち入り禁止になっていました。このままだと結局今年は九都県市合同防災訓練(令和5年8月27日)の1日のみの開放ということになりそうです。もしグッドデザイン賞の審査員がこの状況を知っていたら受賞になったのか疑問です
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